春の暖かい光に包まれて私は阪急三宮駅の1番出口から駅の外へ出た。
もうすっかり春になった三宮の駅前は足取りの軽い人々で賑わっている。
今年は年が明けてからあっという間に春になったというのが私の印象だった。
それというのも娘の結婚が急に決まり家を出ていくことになったからだ。
ばたばたとあれこれの準備や手続きを済まして娘は28年間妻や私と過ごした家をそそくさと出ていった。
それに伴い始まったのは娘という潤滑油のないどこかぎこちない熟年夫婦の生活で、
やれ煙草臭いだとか酒を飲み過ぎだとかことあるごとに小言をもらう初老男が爆誕することとなった。
そこで今日は妻の機嫌をとるべく先日テレビで観たカヌレーの評判がとても良い洋菓子店にそのカヌレーを買いに来たのである。
1番出口から車道沿いに北へ歩いていく。
思っていた以上に暖かい。上着が分厚すぎたかもしれない。
しばらく歩くと前方からなにか騒々しい音が聴こえてくる。道沿いにある建物から漏れ出ているようだ。
もう少し歩いてその建物の前まで着くと地下に降りていく階段がある。この地下から音は発せられている。
騒々しいとしか言いようのない音の中に自分では今まで出したことのないようながなり声が聴こえる。
『We are THE REX!!!!』
私はなぜだか分からないが無性に心臓をわしづかみにされたような気持ちになって、騒々しい音がする地下へ降りる階段に吸い込まれていった。
続く